ホロコーストから学ぶ教訓

Leica M3 / Thambar 9cm f2.2 (Kodak TRI-X 400)
コラム

80年前の11月9日の夜、ドイツ全土でシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)やユダヤ人の商店などが焼き払われた。

ナチスによる弾圧である。

街にガラスの破片が散乱したことから、その迫害は「水晶の夜」と呼ばれる。

 

ユダヤ人虐殺(ホロコースト)の実行責任者だったアドルフ・アイヒマン。

戦後の裁判で彼が主張したのは”「命令」に忠実に従っただけ”ということ。

何百万人もの命を奪った男が裁判で見せたのは、自分の頭で善悪を判断しない姿だった。

 

裁判を傍聴した哲学者ハンナ・アーレントは、その思考の欠如に衝撃を受け、こう指摘している。

「善を為すとも悪を為すとも決めることのできない人間が、最大の悪を為すのです」

(中山元訳『責任と判断』筑摩書房)

 

凄惨な歴史を繰り返さないために、ホロコーストから学ぶ教訓は数多くある。

その一つが、自身の生き方を問うことを忘れ、「善を為す」という勇気を失った時、私たちは人間の生存を奪う悪に加担しかねない、ということだ。

 

「水晶の夜」は、1989年に「ベルリンの壁」が崩壊した日でもある。

心に「差別の壁」をつくるのが人間であれば、「平和の砦」を築くのも人間。

その人間の善性を呼び覚まし、人道の連帯を広めていく。