要領よく生きる人は「脚の早い旅人のようなもの」。
人より先に目的地に着ける代わりに、
途中にある「肝心なものを見落とす恐れがある」
物理学者で随筆家の寺田寅彦がそう言っている。
確かに人生は「旅」に似ている。
一歩一歩、試練や困難を乗り越えた人は
路傍に咲く「かれんな花」に気付き、
愛でながら豊かな境涯を開いていける。
麗しい絆で結ばれた母娘が福岡県大野城市にいる。
娘は2歳で自閉症と診断された。
睡眠障害、著しい多動……。
母は疲れ果て、
涙する日々もあった。
だが懸命に祈り、
娘に寄り添う中で気付く。
「当然」と思ってきた日々の営みが、
実は尊いものなのだ、と。
娘が自分で食事をした。
字が書けた。
学校に行った。
無事に帰ってきてくれた。
感動、感動の連続。
たくさんの感謝で満たされた母の心に包まれ、
娘は奇跡的な成長を遂げる。
今、切り絵作家となり、
先月にニューヨークで展示会を開いた。
朗らかな母の言葉が印象的だった。
「自閉症も、まんざら捨てたもんじゃなかとよ」
「まんざら……」と言えるまでに、
どれほどの祈りと苦労があったか分からない。
ただ、
満面に笑みをたたえる母親の姿は、
誰よりも「心の宝」を掴んだ喜びに輝いていた。
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