2歳で自閉症と診断された娘が切り絵作家に!随筆家・寺田寅彦の言葉になぞらえて

Rectaflex 1300 / Super-Takumar 135mm f3.5 (Ilford DELTA 400)
コラム

要領よく生きる人は「脚の早い旅人のようなもの」。

人より先に目的地に着ける代わりに、

途中にある「肝心なものを見落とす恐れがある」

物理学者で随筆家の寺田寅彦がそう言っている。

『寺田寅彦 科学者とあたま』(平凡社)

 

確かに人生は「旅」に似ている。

一歩一歩、試練や困難を乗り越えた人は

路傍に咲く「かれんな花」に気付き、

愛でながら豊かな境涯を開いていける。

 

麗しい絆で結ばれた母娘が福岡県大野城市にいる。

娘は2歳で自閉症と診断された。

睡眠障害、著しい多動……。

母は疲れ果て、

涙する日々もあった。

だが懸命に祈り、

娘に寄り添う中で気付く。

「当然」と思ってきた日々の営みが、

実は尊いものなのだ、と。

 

娘が自分で食事をした。

字が書けた。

学校に行った。

無事に帰ってきてくれた。

感動、感動の連続。

たくさんの感謝で満たされた母の心に包まれ、

娘は奇跡的な成長を遂げる。

 

今、切り絵作家となり、

先月にニューヨークで展示会を開いた。

朗らかな母の言葉が印象的だった。

「自閉症も、まんざら捨てたもんじゃなかとよ」

 

「まんざら……」と言えるまでに、

どれほどの祈りと苦労があったか分からない。

 

ただ、

満面に笑みをたたえる母親の姿は、

誰よりも「心の宝」を掴んだ喜びに輝いていた。